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プロダクトマネジメントに妥協と忖度はいらない。日本CPO協会 代表理事 Ken Wakamatsu&GO 黒澤 隆由

2021年1月に設立した「一般社団法人 日本CPO協会(JCPOA)」(以下、CPO協会)。

CPO協会の活動は、日本国内でプロダクト開発に関わるCPOやVPoP、プロダクトマネージャーなどを対象に、シリコンバレーをはじめとする海外事例や国内外各企業の取り組みや知見を共有すること。活動を通じて、プロダクト開発を担う人材の育成とプロダクトの底上げを目指す組織です。

この度、新たにGO 執行役員/プロダクトマネジメント本部 本部長の黒澤隆由が理事に就任。CPO協会代表理事のKen Wakamatsuに、黒澤就任の経緯を聞くと、これからの時代に求められるプロダクトマネージャーのあり方が見えてきました。

Ken Wakamatsu(けん わかまつ)
DCM ベンチャーズ Venture Partner 日本CPO協会 代表理事

⽶国カリフォルニア州オレンジカウンティ⽣まれ、カリフォルニア⼤学バークレー校出⾝。⼤学卒業後、エンジニアとしてMacromediaに⼊社。その後、Kodak、Adobe、Ciscoを経てSalesforceに⼊社。2016年、Salesforce Japanに出向し、プロダクトマネジャーの責任者として、プロダクトマネジメントチームを⽴ち上げる。 2020年、AI交通費精算サービスを提供する株式会社metrolyに参画。2022年、DCM Venturesのベンチャーパートナーに就任。DCM Atlas シードプログラム、中小スタートアップ企業をサポート。

黒澤 隆由(くろさわ たかゆき) 
GO株式会社 執行役員 プロダクトマネジメント本部 本部長

製造業のエンジニアとしてキャリアをスタートし、2008年より楽天株式会社にてプロダクト開発に従事。2018年より株式会社ディー・エヌ・エーにてタクシー配車サービスのプロダクト責任者を務め、同時に全社のプロダクト強化やプロダクトマネージャーの育成に取り組む。2020年4月にGO株式会社へプロダクトマネジメント本部 本部長として転籍し、2021年10月に執行役員に就任。


日本で多くのBtoCプロダクトが生き残っていくために

ーまず、CPO協会発足の経緯から教えてください。

Ken:きっかけは、日本への出向です。もともと生まれ育ったアメリカでソフトウェア開発に関わっていたのですが、本国のSalesforceで働いていたところ「日本のマーケットをさらに加速するために日本法人に出向してくれないか」という打診を受けました。

2016年にSalesforce Japanに出向。プロダクトマネジメントチームを立ち上げながらさまざまな日本企業と仕事していたときに「もっとシリコンバレーの事例やプロダクト開発に携わっている人たちの経験を日本企業に共有していきたい」と感じ設立を決意しました。

活動としては、海外のCanvaやAdobe、Cisco、Salesforceなどのプロダクトマネジメントの事例を、私が声をかけた日本企業のCPOやプロダクトマネージャーたちに共有しています。さらに年に1回のイベントを通して、より多くのプロダクトマネージャーやプロダクトマネジメントに興味のある人たちにも共有しています。

ー理事となる日本企業の選定基準について教えてください。

Ken:抽象的な表現になってしまいますが、“ある程度プロダクトの規模がスケールし開発組織が複雑化してきて、CPOというロールやプロダクトマネジメント組織が必要になってきている企業”ですね。

今理事になってもらっている企業ですと、freee や Sansan、SmartHRのように開発組織の規模が大きくなって、複数箇所に関わるプロダクト開発を進めているところや、メルカリ、メルペイのように複数のプロダクトを連携してプロダクト開発をしているところなどが挙げられます。

Google、Uber、Salesforceなどはスケールを得意としている企業なので、事例が必要になる企業も自ずとそれなりの規模になるわけです。

ーなぜ新たにGOに声をかけたのでしょうか。

Ken:日本国内におけるBtoCプロダクトの代表格だと感じたからです。今までの理事メンバーの顔ぶれを見ると、どうしてもBtoCの企業が少ないんです。ラクスルはBtoCの要素はあるものの、BtoBの要素が強いので……。

前提として、日本ではBtoCで成功することが難しいんですよ。そもそもグローバルプロダクトで共通して使えるものが多く、BtoCで勝負しようとしたら一気にグローバルが競合になってしまうので……。

また、BtoBは企業が購入して社員が強制的に使うことになりますが、BtoCには消費者が自分のお金で買うほどの利便性や、バリューが必要ですからね。アメリカだったらマーケットも大きいし、資金力やエンジニアのリソースが違うのでできることは多いのですが、日本だとどうしても生き残れる企業は少なくなってしまいます。

だからこそ、日本でBtoC企業を増やすためのチャレンジをしていきたい。理事メンバーたちと「使うことによって自分の生活が良くなったプロダクトは?」と話したときに挙がったのがタクシーアプリ『GO』であり、黒澤さんのお名前でした。

ー黒澤さんはこの話を受けたときのことは覚えていますか。

黒澤:もちろん、非常に嬉しく、光栄に感じました。

Kenさんがおっしゃる通り、BtoCのプロダクトはBtoBのプロダクトと比較して、スイッチングコストが低い。だから、競合も増えやすいし、第一の選択肢になっていくことは非常に難しいと考えています。

加えて、toCプロダクトはユーザーの利用条件や利用環境もさまざまで、ニーズも多様化しやすく、愛着を持って長く利用いただくためには、機能性だけでなく、細かなUIデザインやインタラクションにまで気を配ってプロダクト設計していく必要があります。

一方で、toBプロダクトの設計における難しさもあって、さらにはtoCとtoBの双方の体験をバランスさせる難しさもあります。だからこそ、そうした知見やベストプラクティスを広く発信していくことには意味がある。「日本のソフトウェア開発全体を底上げしていく一助になれば」という想いで、お話を受けることにしました。

Ken:GOは、プロダクトとしても企業としても非常にパワフルですよね。プロダクトも組織も常に進化している。私個人としても、会社としても『GO』は使っているので、BtoCとBtoBを両立しながら進化させていることは本当に素晴らしく思います。

黒澤:ありがとうございます。

“『GO』でなければ提供できない価値”のために汗をかく

ー改めて、GOでプロダクト開発において重視していることを教えてください。

黒澤:シンプルにプロダクトの強みをつくっていくことです。

確かに、ユーザー満足感につながる使い勝手の良さの追求やつくり込みは非常に重要ですし、着実に改善していくことがプロダクトマネージャーの役割でもあります。細かな改善の方が短時間かつ低コストで実現でき、しかもすぐに結果が得られるので満足感も得やすい。

ただ、細かな改善だけをやり尽くしたとしても“プロダクトの真の強み”にはなり得ない。私たちはよく「バリュープロポジション」と表現しますが、ユーザーに提供する独自の価値、競合ではなく自社だけで提供できる価値、しかもユーザーの根強いペインやイシューに紐づいているような価値を提供できるプロダクトは、やはり強い。特にプロダクトのライフサイクルにおいて成長期にあるプロダクトは、この「バリュープロポジション」をつくることにフォーカスして、他のさまざまな改善欲求や要望への対応優先度を適切にコントロールする必要があります。

先ほどスイッチングコストの話をしましたが、そもそも「こういうシーンでは『GO』でなければ目的を達成できない」という価値をいくつも提供できれば、まず最初に『GO』を立ち上げてもらえますよね。ユーザーにとって第一の選択肢になれるわけです。

“ユーザーの根強いペインやイシューに紐づいているような価値”を提供していくことは非常に難易度が高いチャレンジですが、だからこそ逃げずに汗をかいていくことが重要です。

そのために、プロダクトマネージャーが課題を解決するためのプロダクトアイデアを提示して、自社の技術力を活用して着実に実現していくことが求められます。

ーKenさんの目にはGOのプロダクト開発はどのように映っていますか。

Ken:印象として、大きく分けて2つあります。

1つは、何年も先のビジョンを持ちつつ、数ヶ月ごとのリリースではユーザーがバリューを感じられるものを世の中に届けていて、それをプロダクトマネジメント組織がハブとなってしっかりリードしていること。企業としての成長とユーザーへの価値提供を両立できていることは素晴らしいと思います。

もう1つは組織づくりについてです。GOは組織のメンバーにスペシャリストが多い。実はBtoCにおいては、専門性のあるメンバーがお互いに意見を主張しながら折衷案を探りながらいいプロダクトをつくっていくことが非常に重要になります。

黒澤:スペシャリスト志向は非常に重要ですよね。

GOのプロダクトマネジメント本部にはプロダクトマネージャーだけでなく、プロジェクトマネージャー、デザイナー、UXリサーチャー、データアナリスト、テストエンジニアなどスぺシャリストを集めてチームをつくっています。

そして、ビジネスやエンジニアリングのメンバーとトライアングルのバランスを保ちながら正しくコンフリクトしています。強いプロダクトをつくるためには、非常に重要な要素だと感じています。

日本だとまだジェネラリスト志向が強いですが、いかに優秀でいろんなことで80点をマークできる人たちだったとしても、80点の人たちが集まってつくったプロダクトはやはり80点。90点以上を出せるスペシャリストたちがつくる90点以上のプロダクトには敵いません。

今の日本と欧米のソフトウェア開発における構図にも似ている気がしていますが、Kenさんはどのように考えますか?

Ken:全く同意です。そもそもGOのような成長企業だとジェネラリストを育てるよりも、スペシャリストを育てていく方が効率的ですしね。

彼らがスケールしていけば、チームもスケールして、三者のなかの自立性につながります。ジェネラリストだと、それぞれの事情を理解できてしまうがゆえに、どのチームにも変に遠慮してしまいますからね。

でも、プロダクトマネージャーであれば「これはやり直すべき」という判断をしなければいけない場面が必ずあります。プロダクトが情で流されるようなことがあってはいけません。

黒澤:私自身、エンジニア出身なのでプロダクトマネジメントの際に「どう効率的につくるか」をセットで考えがちでした。すると、いろんなところで妥協や忖度が出ちゃうんですよね。コンフリクトが成り立たないというか。

でも、欧米企業はそうはならない。正しくコンフリクトしあって、いいプロダクトをつくろうとする文化は素晴らしいと思います。

顧客価値とビジネス価値の双方を最大化するプロダクトマネージャーへ

ーなぜ日本ではスペシャリスト志向のチームが生まれにくいのでしょうか。

Ken:やはり人材が足りないからでしょうね。一方、GOの場合は優秀な人材が集まっているから実現できている。彼らを束ねるプロダクトマネージャーも多数在籍しており、それぞれのチームがきちんとスケールしていることを感じられます。

黒澤:スペシャリストが揃っていることも組織としてのスケールのしやすさにつながっているのでしょうか?

Ken:つながっていると思います。欧米の場合は、「エンジニアをやりたい」「プロダクトをつくりたい」「UXをやりたい」というスペシャリスト志向の人材が集まる基盤ができていますからね。

GoogleやMeta、Salesforceのような企業で、基礎を学んできた人たちが起業し、また新しいユニコーン、さらにはデカコーンができて、また同じように夢を追う人たちが集まる……という欧米の基盤が日本にもできたら素晴らしくないですか。

それが、CPO協会を立ち上げたもうひとつの理由でもあります。

ー組織やプロダクトをグロースさせられるプロダクトマネージャーの要件はありますか。

Ken:シリコンバレーにおいても、ファーストキャリアでプロダクトマネージャーになる人はほとんどいないですね。大学を卒業してエンジニアになるか、大学院を卒業してMBAを取得しているときにインターンでプロダクトマネージャーになるか……。

そのうえで適している人として、3つのパターンが考えられます。1つはエンジニアリングの経験があること。もう1つはビジネスに強く、プロダクトへの理解があること。もう1つはシリコンバレーでは数は少ないですがデザイナーの経験があること。

「エンジニアリング」「ビジネス」「デザイン」のどれかに長けていて、残りの2つを学びつつ、企業のトップを含めた社内とコミュニケーションをとっていける方が、組織やプロダクトをグロースさせられるプロダクトマネージャーになっていくのではないでしょうか。

黒澤:その通りですね。「バリュープロポジション」をつくっていくためには、さまざまなビジネス要件とエンジニアリングやデザインの要望、ときには経営のオーダーが全部コンフリクトするわけですから。全方位を考慮してプロダクトとしての“あるべき姿”を軸に考えて、バランスをとって着地点を見つけることがプロダクトマネージャーの役割だと感じています。

最終的にはビジネス価値と顧客価値の双方を最大化することがプロダクトマネージャーには求められるので、ビジネス・開発・デザイン全体に対しての知見が必要ですし、自身の強みとなるバックグラウンドは絶対に必要になると思います。

ーこれからの時代のプロダクトマネージャーに必要な能力とは。

Ken:多様性は必要になっていくのではないでしょうか。日本ではまだ少ないですが、GOのユーザーの50%が女性であれば、女性の考え方でプロダクト開発することも新しい未来につながるはずですから。

黒澤:確かにそうですね。実際、GOのプロダクトマネジメント本部でもさまざまなバックグラウンドのメンバーが活躍しています。今後多様性はキーワードになっていくでしょうね。

Ken:たとえば全員がエンジニアリングに偏りすぎると、プロダクトも偏ってしまいますからね。幅広い年齢層やジェンダー、ビジネスの観点を持った人と強くコンフリクトし合えるようになると、より良いプロダクトができると思います。

※掲載内容は2023年9月時点の情報です。

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